
Netflixの高い生産性を、人事制度や「自由な企業文化」だけで説明することはできません。
注目したいのは、社員が日常の仕事で何を考え、どう判断し、どう行動しているのかです。
今回Peemoが集めたエビデンスから浮かび上がったのは、①自分の見方を疑う、②異なる意見を自ら探す、③自分で判断し、結果から学ぶという3つの思考行動です。
さらに興味深いのは、これらが「飛びぬけたリーダー」の研究から見えてきた、世界のさまざまな組織のトップ10%のリーダーを平均的・低評価のリーダーから識別する19のコンピテンシーと重なることです。
Netflixの社員行動を、飛びぬけたリーダー、ダイアローグワークス、精密な質問と回答の3つの視点から掘り下げてみます。
そこから、日本企業の「自律型人材」「心理的安全性」「意思決定力」「管理者育成」「生産性向上」をつなぐヒントが見えてきます。
「反対意見があれば言ってください」ではない
Peemo(公開情報から社員行動のエビデンスを集めるリサーチ役):
「Dash、Netflixで特に特徴的なのがFarming for Dissent(意図的に反対意見を集めること)です。
重要な意思決定では、Informed Captain(十分な情報を得た意思決定責任者)が判断を担います。
でも、自分の案をそのまま通すのではありません。
職位に関係なく異なる意見を探し、意思決定に関係する専門知識を持つ人の意見を重視する。そして最後はInformed Captain自身が判断します。
決定後は異論を持っていた人もコミットし、結果が明らかになったら、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを振り返ります。」
Dash(社員行動の意味を分析する役):
「私はここに、Netflixの仕事の進め方の本質の一つがあると思います。
ポイントは、
『反対意見を言ってもいい』ではなく、『意思決定者自身が反対意見を探す』
ことです。
ここをダイアローグワークスのメンタルモデルから見ると、さらに面白くなります。」
思考行動① 自分のメンタルモデルを疑う
Dash:
「私たちは事実をそのまま見ているつもりでも、経験、知識、価値観、過去の成功体験などから形成されたメンタルモデルを通して現実を見ています。
同じエビデンスを見ても、人によって解釈が違う。
しかも、自分の解釈を“事実”だと思ってしまうことがあります。
たとえば、上司が、
『最近の若手は主体性がない』
と考えたとします。
しかし、実際のエビデンスは、
『会議で自分から発言しなかった』
『行動する前に上司へ確認した』
だけかもしれません。
そこに、
発言しない
→ 意見がない
→ 指示待ちである
→ 主体性がない
という解釈が加わっている可能性があります。
だから、
『私が実際に見たエビデンスは何か』
『私はそこにどんな意味を加えたのか』
『別の見方はないか』
と、自分のメンタルモデルを問い直す必要があります。」
Peemo:
「経験豊富な人なら、むしろ正しく判断できるのでは?」
Dash:
「経験は非常に重要です。
ただし経験は、
『この業界ではこうするものだ』
『この顧客はこう考える』
『部下はこう育てるべきだ』
という強いメンタルモデルもつくります。
経験が判断力を高める一方で、過去の成功が新しい可能性を見えにくくすることもあります。
だからこそ、自分とは違う見方が必要になります。」
世界のトップ10%のリーダーは何をしているのか
ここで飛びぬけたリーダーの研究とつながります。
飛びぬけたリーダーでは、世界のさまざまな組織で高い成果を上げるトップ10%のハイパフォーマーが、平均的・低評価のリーダーと比較して、どのようなコンピテンシーをより発揮しているのかを研究しています。
そこから特定されたのが、19のコンピテンシーです。
19のコンピテンシーは、5つの領域に整理されています。
人格
個人の能力
結果指向性
対人関係スキル
変化をリードする
その中には、問題を解決し分析する、意思決定する、イニシアチブを取る、ラーニングアジリティ(柔軟かつ機敏に学習する)、協働、イノベーション、顧客・外部へのフォーカスなど、Netflixの社員行動を考えるうえで興味深いコンピテンシーが含まれています。
Dash:
「ここで重要なのは、『Netflixの社員が飛びぬけたリーダーの19のコンピテンシーを持っている』と断定することではありません。
Netflixが公開している社員行動と、世界のさまざまな組織のトップ10%のハイパフォーマーがよく発揮しているコンピテンシーとの間に、重なって見える部分があるということです。
しかも、それらは役職者だけに必要な行動なのでしょうか。
Netflixを見ていると、私はむしろ、
リーダーシップ行動を、マネージャーになってから初めて学ぶのでは遅いのではないか
という問いが出てきます。
飛びぬけたリーダーでも、リーダーを役職者として捉えていません。
子供から大人まですべての人がリーダーになり得ます。
自分の目標を達成することを通じて、チームの目標達成に貢献する人をリーダーと捉えています。
そう考えると、19のコンピテンシーを『管理職になった人に必要な能力』としてだけ見るのではなく、一人ひとりが仕事を通じて成果を生み出し、チームの成果に貢献するための行動として捉えることができます。
Netflixの事例が興味深いのは、まさにそこです。
社員が役職者になるのを待ってから判断力を鍛えるのではなく、日常の仕事の中で、自分で考え、他者とつながり、判断し、行動し、結果から学ぶことが求められているのです。」
思考行動② 異なる意見を「待つ」のではなく探す
Peemo:
「そこでFarming for Dissentですね。」
Dash:
「そうです。
普通なら、
『何か反対意見はありますか?』
と聞く。
誰も話さなければ、
『異論なし』
として進むかもしれません。
でもNetflixでは、意思決定者が異なる意見を探しに行く。
ダイアローグワークスの視点で見ると、これは単なる意見収集ではありません。
自分のメンタルモデルを検証するために、異なるメンタルモデルを持つ人と意図的につながる行動
と見ることができます。」
たとえば、
「私が見落としているエビデンスはないか」
「この案に反対するとしたら、どこか」
「この顧客を別の立場から見ると、何が見えるか」
「私とは違う経験を持つ人なら、どう判断するか」
と問いかける。
Peemo:
「これは心理的安全性とも関係しますね。」
Dash:
「私は、日本のHRにとって重要なポイントだと思います。
心理的安全性を、
『反対意見を言っても怒られない』
だけで終わらせない。
その先に、
『意思決定者が、異なる意見を必要としている』
という状態があります。
発言する側だけに勇気を求めるのではなく、意思決定者自身が、
『私の見方は完全ではない』
という前提で異論を取りに行く。
そうなると心理的安全性は“雰囲気づくり”ではなく、意思決定の質を高める仕事の進め方になります。」
飛びぬけたリーダーの19のコンピテンシーにも、協働とチームワーク、関係構築、力強いコミュニケーション、多様性を尊重するといった、対人関係スキルに関係する行動があります。
つまり、優れた判断とは「一人で正解を出せること」とは限りません。
必要な人とつながり、異なる視点を取り込み、それでも最後は自分で判断する。
ここにも、トップ10%のハイパフォーマーがよく発揮するコンピテンシーとの接点が見えてきます。
思考行動③ 「正しい答え」の前に「正しい問題」を問う
Peemo:
「異なるメンタルモデルに触れると、最初に考えていた問題自体が違っていたと気づく可能性もありますね。」
Dash:
「そこで精密な質問と回答が効いてきます。
たとえば、
『若手社員の主体性をどう高めるか』
という問題があったとします。
すぐ研修を企画する前に、
『主体性がないと判断したエビデンスは何か』
『上司に確認することと、主体性がないことは同じなのか』
『社員自身が判断できる仕事を、どれだけ与えているか』
『上司が意思決定を握りすぎていないか』
と問いを精密にする。
すると問題が、
『主体性のない若手をどう教育するか』
から、
『社員が自分で判断する経験を、日常業務でどう増やすか』
へ変わるかもしれません。」
飛びぬけたリーダーの19のコンピテンシーには、「問題を解決し分析する」「意思決定する」「ラーニングアジリティ(柔軟かつ機敏に学習する)」「イニシアチブを取る」といった行動もあります。
Dash:
「ここが私には非常に重要です。
コンピテンシーを『持っている能力』として見るだけではなく、仕事の中で実際に発揮される行動として見る。
自分で問題を捉える。
必要な情報を集める。
異なる見方を取り込む。
問題設定を問い直す。
判断する。
行動する。
結果を見て学ぶ。
こうした行動を日常の仕事の中で繰り返すことが、コンピテンシーを発揮し、さらに伸ばしていく機会になるのではないでしょうか。」
「自律型人材を育てる」の前に考えたいこと
Peemo:
「日本企業では『自律型人材を育成したい』という話をよく聞きます。」
Dash:
「だからこそ私は、
『自律型人材に必要な研修は何か』
と考える前に、
『社員は日常の仕事で、自分で判断する機会をどれだけ持っているか』
を確認したいですね。
研修で『主体的に考えよう』と伝えても、職場に戻れば上司がほとんどの判断をする。
それでは、判断力を発揮する機会がありません。
飛びぬけたリーダーの19のコンピテンシーは、理想的なリーダー像を頭の中で考えてつくられたものではありません。
世界のさまざまな組織において、実際に高い成果を上げているトップ10%のハイパフォーマーが、どのようなコンピテンシーをよく発揮しているのかを調べたところから導き出されたものです。
そしてNetflixを見ると、その一部と重なる行動が、経営幹部だけではなく、組織のさまざまなレベルでの意思決定に求められている。
ここに人材開発の可能性を感じます。」
HLSで見えてきた、もう一つの問い
Peemo:
「Dash、HLS Global Case Researchとしてはどう整理しますか?」
Dash:
「今回、Netflixを調べて一つ新しい問いが生まれました。
研究上これまで追ってきた、
見る → 問う → つながる → 判断する → 動く → 学ぶ
という流れで、Netflixの社員行動の多くは説明できます。
しかし、Farming for Dissentをメンタルモデルの視点から考えると、その間に、
『自分の見方を疑う』
という重要な行動が見えてきます。
これは『問う』に含めるのか。
『つながる』の中に、異なるメンタルモデルを持つ人を意図的に探すことまで含めるのか。
それとも、独立して捉える必要があるのか。
今はまだ決めません。
Netflix一社から結論をつくるのではなく、今後調べる高生産性企業でも、
自分の前提を疑う
異なる見方を探す
問題そのものを問い直す
自分で判断する
結果から学ぶ
という行動が繰り返し見つかるのか、エビデンスを集めたいと思います。」
ここで、飛びぬけたリーダーの研究がHLSにもう一つ重要な視点を与えてくれます。
成果を生み出す人の行動を、印象や理想論ではなく、実際のハイパフォーマーとの違いから探す。
これはHLS Global Case Researchが企業を見るときにも大切な姿勢です。
会社が何を理念として掲げているかだけを見るのではなく、
高い成果を上げる組織では、社員は実際にどう仕事に取り組み、どう仕事を進めているのか。
そこを追う。
日本のHRに問いたいこと
自律型人材育成。
心理的安全性。
権限委譲。
管理職育成。
アンコンシャス・バイアス。
リスキリング。
生産性向上。
これらは別々のHR施策に見えます。
しかし、Netflixの社員行動と飛びぬけたリーダーの研究を重ねると、一つの問いに集約されてきます。
社員は、日常の仕事の中で「より良い判断ができる人」へ成長しているでしょうか。
上司から答えをもらう。
その答えを正確に実行する。
それだけでは、判断する力を発揮する機会は増えません。
自分で見る。
自分のメンタルモデルを疑う。
問いを立てる。
異なる人とつながる。
エビデンスを集める。
自分で判断する。
動く。
結果から学ぶ。
私は、この仕事の進め方そのものを人材開発にしていくことが、日本企業の生産性向上を考えるうえで重要なのではないかと考えています。
Netflixをコピーする必要はありません。
しかし、
「あなたの会社では、トップ10%のハイパフォーマーが実際にどんな行動をしているのか」
そして、
「その行動を、次の人材が日常の仕事の中で発揮し、磨く機会があるのか」
この二つの問いは、日本のHRにとって非常に重要ではないでしょうか。
Akira Chida(Dash)
SmartWorks
HLS Global Case Research