人間はすべてのものごとを見聞きしているわけではありません。周囲の情報をふるい分けして、その状況において自分が重要だと判断したものにだけ、注意を向けます。ふるい分けは無意識のうちに行われることが多く、自分が、どんな理由で判断したのかもわからないことが多いものです。ふるい分けのための「ふるい」はメンタルモデルとかパラダイムなどと呼ばれます。

ところで、マネジメントやリーダーシップなど習慣化や行動化がカギとなる研修では、研修後に職場で何をするのか計画を書き出す作業を行うのが一般的です。つまりアクションプランを作ります。アクションプランは、研修後のお作法だから付き合って書いているだけ、という方はいらっしゃいますか?

アクションプランを作成することにはデータに基づく科学的な理由があります。でもそれは今日の本題ではありませんのでひとまず置いておきます。アクションプランを書いていると、自分の思考は必然的に細部に向かいます。SMART GOAL※を参照しながら考えを進めていくこともあるでしょう。

※SMART GOALは、目標設定においては、Specific(具体性がある), Measurable(結果を評価できる), Achievable/Actionable(実現できる/行動できる), Relevant/Realistic(適切である/現実的である), Time-Dimensioned(期限が設定されている)の基準が満たされなければならないとする考え方です。英単語の種類にはいくつかのバリエーションがそんざいましますが、趣旨は同じです。

研修で学んだことをいつまでに達成しようか、どんなふうに実行しようか…と考えていくうちに、思考のフォーカスが徐々に細かいところに向かっていくと、まもなく人間は全体像を忘れてしまいます。なぜって、今、最も大切なのは細部を入念に検討することであり、メンタルモデルが私たちの全神経を細部に集中させるからです。そうなると優秀な人も、大きな全体像やそもそも論を見失いやすくなります。そして、「遠くのゴールを意識して、継続すればゴールの方向に確実に向かうような計画を立てる」ことから脱線しやすくなります。

メンタルモデル自体は人間の脳や認知のしくみの一部であり、どうすることもできません。ですからアクションプランの細部を十分に考えたら、そもそもの自分の目標を思い起こして確認することが役立ちます。アクションプラン次第で私たちは、ゴールに到着するかもしれないし、たんに放浪の旅に出てしまう可能性もあるのです。