『やっぱり基本が重要:人材開発のKnowing Doing Gap』では、Knowing Doing Gapに留意しておく大切さに触れました。行動変化が求められる時にこの基本を無視すると、手間ひまかけて何かを実施しても、皆、頭でわかっただけで、行動が変わらない可能性が高いからです。

「頭でわかっただけで習慣化していない」状況で研修効果を確かめるためにペーパーテストを実施すれば、正答率はそれなりに高いだろうと予測できます。ペーパーテストで高い正答率が出ればよいのなら全く問題ありません。でもペーパーテストの点数ではなく、日々やっているかどうかが重要なら、これでは困ります。ペーパーテストでは知識習得を確認できますが、行動変化したか(するか)どうかは、別の話です。

マネジメントやリーダーシップなど、人とうまく協働するためのスキルであるヒューマンスキル系の人材開発は、ほとんどの場合、行動変化がゴールです。
それではヒューマンスキル系の能力で、行動変化が全く要らないものはどのくらいあるでしょうか?近年、話題になったものや普遍的なテーマで考えてみます。以下のリストの中で、「行動変化は不要だから、知識だけ習得してくれれば結構だ」と断定して差し支えないのはどれでしょうか?
― 相手の話を傾聴する
― リモートワークの部下のエンゲージメントを高める
― チームの心理的安全性を高める
― アンコンシャス・バイアスを踏まえてダイバーシティを促進する
― 部下を育成する
― 経営者の視点で、ビジネス感覚を持って考える
― 1オン1の会話を通じて部下の成長を支援する
― 既存の枠組みにとらわれないで考える
― クリエイティブに発想し、イノベーションを創造する
― コンプライアンスに努める
― タイムリーに意思決定する
― 明快なコミュニケーションをする
― 皆に信頼される
― 上司としてチームのモチベーションを高める
― 皆のロールモデルとなる
― 皆の気持ちに配慮してワークライフバランスを実現する
― 相手のニーズに合わせてリーダーシップを発揮する
― その他
ヒューマンスキルのリストは果てしなく続きますが、上記の項目の中に、行動変化が全く要らないものは皆無です。いずれも、これまでの行動を止める必要がある、または新しい行動を始める必要があるものばかりです。
もちろんその行動を実行するにはやり方の知識が必要なものもありますが、あくまで最終目的は「行動」です。ヒューマンスキルについて知識を習得して満足するだけでは、チームとして、組織として、効果を享受することができません。

さらに言えば、研修が終わって皆が興奮しながら「ためになった!これから頑張ります!」と盛り上がっているだけでは、行動化につながらないことにも注意が必要です。そのためにも人間の行動を促進したり妨害したりする複雑な要因を念頭において、人材開発施策をデザインする必要があります。

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