弊社は人材開発の会社です。経営視点に立ってみれば、組織に地に足がついたパーパスが根付いていることや、組織の皆が使命感や志を感じていて、それに向かって自律的に動機づけられている状態を歓迎します。

でもここ数日、研修の合間の雑談で、立て続けに数名の若い受講者が「上司に、君のパーパスは何かと、繰り返し聞かれて辛い。そんなことを考えて入社したわけではない。」と訴えました。その中のお二人は思いつめて離職を視野にいれていらっしゃいました。ちなみにどなたも世界的に名の知れた日本を代表する企業の皆さんです。離職は今少し思いとどまってみるほうが良いのでは…と申し上げたものの、聞いている側も辛くなる訴えでした。
上司の方は昨今耳目を集めているPurpose Driven Organization(パーパスに導かれる企業)というコンセプトに魅了されていらっしゃるのかもしれません。

翻って、そもそも人間はどうやって、自分のパーパスや人生におけるミッションを見つけるのでしょうか。もともと日本で生まれ育つ多くの人にとって、就職前に自分が人生で成し遂げたいことや人生の目的を考えることは、一般的ではありません。すでに管理職になっている方ですら、パーパスは何か?なんて突然質問されたら、答えられない方も多いのではないでしょうか。

自分が人生でもっとも意義や価値を感じるものは何か?という抽象的・哲学的な問いは、誰にとっても答えにくいものです。単に、もっとも好きなものは何かと聞かれても、選択肢が多すぎると意外と答えにくいものです。
そんなとき、何かと何かを比較すると、そのどちらの方がより好みにあうのか、答えやすくなります。たとえばスポーツは何でも好きと言う場合でも、「じゃあ卓球とバドミントンだったら、どっちが好き?」「卓球とサッカーなら?」と多面的に考えていくことで、もっとも好きなスポーツに気づきやすくなります。

つまり人生においてもっとも価値・意義を感じるものは何?の問いに答えるためには、他者との豊かな関わりや多様な業務経験を通じて、これが好き、あれはもっと好き、それは嫌い…という体験を豊富に蓄積することが役立つわけです。上司や管理者の側は良かれと考えて問いかけるわけですが、若い社員を拙速に追い詰めてはいけないと改めて感じる次第です。