AIを使える社員を増やせば、組織の成果も高まるのでしょうか。
AIの導入が進むなか、多くの企業が社員のAIスキル向上に力を注いでいます。しかし、AIを使いこなすことと、AIによって新しい価値を生み出すことは同じではありません。
AIが分析や提案などの知的業務を担うようになると、リーダーには何が求められるのでしょうか。
AI革命は、技術導入の問題であると同時に、リーダーシップの問題でもあるのです。
1.IT革命からAI革命へ。リーダーの役割はどう変わるのか?
IT革命は、情報のデジタル化と業務効率化を進めました。
リーダーには、ITを活用して情報を共有し、業務を標準化し、生産性を高める能力が求められました。
一方、AI革命では、人間が担ってきた分析、推論、提案、さらには一部の業務遂行までAIが担当できるようになっています。
この変化によって、リーダーの役割も大きく広がります。
| 比較項目 | IT革命 | AI革命 |
|---|---|---|
| 変革の中心 | 情報のデジタル化と効率化 | 知的業務の自動化と価値創造 |
| 仕事の管理 | 人に仕事を割り当てる | 人間とAIの協働を設計する |
| 意思決定 | 情報を分析して判断する | AIの提案を検証し、責任を持って判断する |
| 人材育成 | 知識と業務遂行能力を高める | 問題発見力、思考力、判断力を育てる |
| 変革の推進 | 新システムへの適応を促す | 仕事の進め方そのものを再設計する |
IT革命では「人間がITを使って仕事をする」ことが中心でした。
AI革命では「人間とAIが協働して新しい価値を創造する」ことが重要になります。
では、この変化に対応するため、リーダーには具体的にどのような能力が必要なのでしょうか。
2.AI時代に求められる5つのリーダーシップ能力
① 正しい答えを出す能力から、正しい問いを立てる能力へ
AIは与えられた問題に対して、多様な解決策を提示できます。
しかし、そもそも何が問題なのか、何を解決すべきなのかを見極めることは、人間の重要な役割です。
例えば、「報告書の作成時間を半減するには?」という問いに対して、AIは効率化の方法を提案できます。
しかし、「この報告書は何のために必要なのか?」と問い直せば、報告業務そのものを廃止・再設計する可能性が生まれます。
AI時代には、問題を解決する能力だけでなく、問題そのものを問い直す能力が重要になります。
② 人間とAIの協働を設計する能力
これまでリーダーは、部下の知識や経験に応じて仕事を割り当ててきました。
これからは、どの仕事をAIに任せ、どこに人間の判断、創造性、対話を残すかを決める必要があります。
例えば、営業部門でAIが市場分析を担当するなら、社員は顧客の潜在的なニーズの発見や新しい提案に、より多くの時間を使うことができます。
重要なのは、AIで仕事を減らすことだけではありません。人間がより高い価値を生み出せるように、仕事を再設計することです。
③ AIの提案を検証し、責任を持って判断する能力
AIは膨大な情報を処理し、説得力のある提案を示します。しかし、その回答には誤りや偏りが含まれる可能性があります。
例えば、AIが人事評価データを分析して昇進候補者を推薦したとしても、その結果を無条件に採用することは適切ではありません。
リーダーは、評価基準の公平性やデータの偏りなどを確認し、最終的な判断に責任を持つ必要があります。
④ 既存業務を改善する能力から、仕事を再構想する能力へ
IT革命では、既存業務を速く、正確に、効率的に進めることが重視されました。
AI革命では、業務の前提そのものを問い直すことができます。
例えば、営業報告書をAIで短時間に作成するのは業務改善です。
しかし、報告書の目的を見直し、情報共有の仕組みを変え、営業担当者が顧客との対話に集中できるようにすることは、仕事の再構想です。
⑤ AIとともに学び続ける人材を育てる能力
AIによって、社員は専門的な知識や分析結果を容易に入手できるようになりました。
しかし、AIの回答をそのまま受け入れるだけでは、社員自身の思考力や判断力が十分に育たない可能性があります。
ここで重要になるのが、リーダーのコーチング能力です。
部下がAIの分析結果を持ってきたとき、上司は次のように問いかけることができます。
「AIの分析で、疑問に感じたことはある?」
「AIが見落としている顧客の事情はないだろうか?」
「あなた自身は、どのように判断する?」
こうした問いかけによって、部下はAIの回答を受け取るだけでなく、自ら考え、判断する力を高めることができます。
3.AI時代に重要性が高まる、飛びぬけたリーダーの能力
AI時代には新しい能力が求められます。しかし、従来から重要だったリーダーシップ能力が不要になるわけではありません。
Zenger Folkmanが2026年に発表した研究では、138,777人のリーダーに対する200万件以上の評価データを活用し、AI時代における人間中心のリーダーシップ能力の重要性を検討しています。
特に注目されるのは、次の3つの能力です。
– 他者の能力を伸ばす
– 高いパフォーマンスに向けて他者を動機づける
– 人間関係を築き、信頼を獲得する
例えば、「他者の能力を伸ばす」が下位25%のリーダーは、総合的なリーダーシップの有効性が平均21パーセンタイルだったのに対し、上位25%のリーダーは85パーセンタイルでした。
両者には64パーセンタイルの差が見られます。
これは、他者の能力を伸ばすことと、リーダーシップの有効性に強い関連があることを示しています。
また、同研究では、「高いパフォーマンスに向けて他者を動機づける」能力が、評価されたリーダーの能力の中で最も低い水準にある一方、部下はこの能力を自分たちの成功に最も重要なものと評価していました。
AIが業務遂行を支援するほど、部下の能力を伸ばし、意欲を引き出し、信頼関係を築くリーダーの役割は重要になります。
AIは新しいリーダーシップモデルを生み出したのではありません。飛びぬけたリーダーに従来から求められてきた能力の重要性を、さらに高めているのです。
4.飛びぬけたリーダー(The Extraordinary Leader™)の19コンピテンシーをAI時代にどう活かすか?
飛びぬけたリーダー(The Extraordinary Leader™)は、リーダーシップを19のコンピテンシーから捉え、360度評価によってリーダーの強みと開発課題を明らかにします。
AI時代に向けて重要なのは、この19の能力をすべて入れ替えることではありません。
既存の能力が、AIを活用する職場でどのような行動として発揮されるべきかを明らかにすることです。
例えば、次のように考えられます。
| ELのコンピテンシー | AI時代に求められる具体的な行動 |
|---|---|
| 戦略的視点で考える | AIによる事業環境の変化を捉え、新しい方向性を示す |
| 問題解決や課題分析をする | AIの分析を検証し、解決すべき問題を問い直す |
| 柔軟に新しいものを取り入れる | AIを活用して新しい顧客価値を創造する |
| 他者の能力を伸ばす | AIを活用しながら、自ら考え判断する部下を育てる |
| 高いパフォーマンスに向けて他者を動機づける | AI変革の意義を伝え、社員の挑戦意欲を引き出す |
| 人間関係を築く | AI導入への不安に向き合い、信頼関係を深める |
| 変化を推進する | 人間とAIの協働によって仕事の進め方を変革する |
※コンピテンシー名はSmartWorksによる日本語定訳(Zenger Folkman認証)を使用しています。右欄はAI時代への応用としてSmartWorksが整理した行動例であり、Zenger Folkmanの公式な新分類ではありません。
AIを活用した業務改革の知識を習得しても、部下に変革の意義を伝えられず、信頼を得られなければ、職場での実践は進まないかもしれません。
一方、部下を動機づけ、信頼関係を築くことに優れたリーダーであっても、AIの可能性と限界を理解していなければ、仕事の再設計を十分に進められないでしょう。
AI時代のリーダーシップ開発では、既存のリーダーシップ能力とAIを活用する新しい行動を結びつけることが重要になります。
5.360度評価をAI時代の行動変容につなげる
AIの利用回数や業務時間の削減だけでは、リーダーシップの向上を測ることはできません。
重要なのは、リーダーの行動によって、部下の思考、判断、挑戦、協働がどのように変わったかです。
そのために、AI時代のリーダーシップを捉える7つの行動指標を考えてみましょう。
1. 問いの再定義:AIに答えを求める前に、解決すべき問題を問い直しているか。
2. 人間とAIの役割設計:AIに任せる仕事と、人間が担う仕事を適切に区別しているか。
3. 批判的判断: AIの提案を検証し、根拠を持って最終判断しているか。
4. 新しい価値の創造: AIを効率化だけでなく、新しい顧客価値の創造に活用しているか。
5. 人材育成: 部下がAIを使いながら、自ら考え、判断する機会をつくっているか。
6. 変革への動機づけ: AI導入の目的を説明し、部下の不安や疑問に向き合っているか。
7. 継続的な学習:AIを活用した試行錯誤と学習をチームに定着させているか。
これらはELの公式な評価項目ではなく、AI時代の職場行動を検討するための指標案です。
既存のEL 360度評価によってリーダーシップの強みを明らかにし、これらの行動指標を参考に職場での実践を振り返ることで、具体的な能力開発につなげることができます。
6.強みを活かして、AI時代の行動を変える
ある製造業の部長を例に考えてみましょう。
この部長は、ELの360度評価で「問題解決や課題分析をする」に強みがある一方、「他者の能力を伸ばす」は相対的に低い評価でした。
部長はAIを積極的に導入し、部下に分析業務の効率化を促しました。
3か月後、報告書の作成時間は大幅に短縮されました。しかし、部下はAIの分析結果をそのまま提出するようになり、自分の判断を説明する機会が減っていました。
ここで必要なのは、AIの使い方をさらに教えることだけではありません。
部長自身のリーダーシップ行動を変えることです。
例えば、部下がAIの分析結果を提出したときに、次のように問いかけます。
「AIの分析結果について、あなた自身はどう考える?」
「その結論を裏づける事実は何だろうか?」
「別の可能性を検討するとしたら、何が考えられる?」
こうした対話によって、部下はAIの回答を検証し、自ら判断する習慣を身につけることができます。
この部長は、「問題解決や課題分析をする」という自分の強みを活かしながら、「他者の能力を伸ばす」行動を強化できます。
重要なのは、弱い能力を補うことだけではなく、自分の強みを活かして新しい行動を生み出すことです。
※この事例は、能力開発の考え方を説明するための架空のケースです。
7.AI時代のリーダーシップ開発を、研修から職場実践へ
AI時代のリーダーシップ開発では、研修で知識を習得するだけでは十分ではありません。
例えば、3か月間のラーニング・ジャーニーを通じて、次のような職場実践が考えられます。
第1か月:仕事の再設計
AIを活用して改善できる業務を一つ選び、人間とAIの役割分担を見直します。
第2か月:他者の能力を伸ばす
AIの分析結果を題材に、部下が自ら考え、判断するためのコーチングを実践します。
第3か月:変化を推進する
チームでAI活用の成功・失敗事例を共有し、新しい仕事の進め方を定着させます。
各月にピア・コーチングを実施し、受講者同士が実践内容を振り返ります。
さらに、講師によるフィードバックやパルス・チェックを組み合わせることで、リーダー自身の行動がどのように変化したかを確認できます。
360度評価、強みを活かした能力開発、職場実践、フィードバックを結びつけることが、AI時代のリーダーシップ開発を具体的な成果につなげる方法の一つです。
8.AI時代の飛びぬけたリーダーとは?
IT革命は、人間の情報処理能力を拡張しました。
AI革命は、分析や推論、提案といった知的業務の一部をAIが担うことで、仕事の進め方そのものを変え始めています。
この変化によって、リーダーシップの中心的な問いも変わります。
IT革命では、「人と技術をどう活用すれば、仕事の成果を高められるか?」が重要でした。
AI革命では、「AIが多くの知的業務を担う時代に、人間はどのような価値を創造し、リーダーはその可能性をどう引き出すか?」が問われます。
AIを使いこなす能力は、これからのリーダーに必要です。
しかし、それだけでは飛びぬけたリーダーにはなれません。
AI時代の飛びぬけたリーダーとは、人間の能力を最大限に引き出し、AIの能力と組み合わせることで、これまで実現できなかった価値を創造する人です。
AI革命が求めているのは、AIに仕事を任せるだけのリーダーではありません。
AIによって人間の可能性を広げるリーダーなのです。
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参考文献
Jonathan Bowder and Joe Folkman, “AI Leadership Failure: Why AI Transformation Depends on Leaders,” Zenger Folkman, 2026.
※本記事におけるAI時代の5つの能力、7つの行動指標、架空の事例および能力開発への応用は、SmartWorksによる分析・提案です。