心理的安全性を高めれば、よりよい職場になるのだろうか?
心理的安全性という言葉を、職場で聞くことが増えました。
お互いを尊重し、相手を傷つけない。できるだけ否定的なことを言わない。
そうした「互いに嫌な思いをさせないこと」が、
心理的安全性だと受け取られていることもあります。
もちろん、互いを尊重し、安心して働ける職場をつくることは大切です。
ただ、心理的安全性が本来目指しているのは、
単に誰も不快にならない職場をつくることではありません。
仕事をしていれば、
「それは違うのではないか」
「このまま進めるのは危険だと思う」
「わかりません」
「失敗しました」
「助けてほしい」
と言わなければならないことがあります。
こうした発言には、ときに勇気がいります。
無知だと思われるかもしれない。
能力がないと思われるかもしれない。
相手に反対すれば、関係が悪くなるかもしれない。
それでも、仕事に必要な疑問や懸念、異なる意見、失敗などを安心して口にできる。
心理的安全性が目指しているのは、そのような職場です。
それによって、
問題を早く見つけたり、
異なる意見からよりよい判断をしたり、
失敗から学んだりすることができます。
ですから、心理的安全性は「誰も嫌な思いをしないため」のものではなく、
必要なことを安心して持ち出し、チームがよりよく仕事をするための土台
だと考えるとわかりやすくなります。
もちろん、だから相手を傷つけてもよい、ということではありません。
言わない方が、楽だと感じることもある
部下の仕事に問題があることに気づいた。
同僚の判断に疑問を感じた。
上司が進めようとしていることに、大きなリスクがあると思った。
こうしたとき、何も言わなければ、その場では摩擦を避けられます。
相手を傷つけることも、自分が嫌な思いをすることもないかもしれません。
しかし、その状態が続いたらどうでしょう。
部下は問題に気づかないまま経験を重ねるかもしれません。
そのことが、後になってもっと大きな問題を生み出すかもしれません。
組織として早い段階で修正できた問題を、見過ごしてしまうこともあります。
今だけでなく、その先まで考える必要があります。
心理的に安全でも、重要な話ができるとは限らない
たくさん話していることと、重要なことを話していることは同じではありません。
心理的安全性が特に重要になるのは、皆と違う意見を言うときです。
「私は違うと思う」
「そこには問題があるのではないか」
「今のやり方を変える必要がある」
こうしたことを安心して口に出せる環境は重要です。
しかし、安心して発言できる環境があることと、
組織にとって重要なことを実際に伝え、話し合えることは別です。
相手との関係や状況を考えながら、何を、どのように伝えるのか。
相手の反応を受け止めながら、必要なところまで話し合えるか。
そこには、心理的安全性という環境だけでなく、
コミュニケーションの力も必要になります。
誰にとって、いつまでの「安全」なのか
職場で問題に触れることを避ければ、その瞬間には誰かの負担を減らせるかもしれません。
しかし、その結果として問題が大きくなれば、
後になって本人がもっと厳しい状況に置かれることもあります。
周囲や組織が大きな損失を受けることもあります。
人材育成でも同じです。
今できていることだけを認め、
本人が向き合いたくない課題には触れない。
それは、その瞬間には優しいかもしれません。
しかし、今はそうだとしても、将来もそれでよいのでしょうか。
この視点を持つと、
心理的安全性は「誰も傷つかない職場をつくる」という話だけではなくなります。
そもそも、心理的安全性を通じて、私たちは何を実現したいのでしょうか。
本人にとって何がよいのか。
チームにとって何がよいのか。
組織にとって何がよいのか。
そして、今だけでなく、この先どうなるのか。
それらを考えながら、必要なことを安心して話し合い、
違いがあっても一緒に問題を解決できる状態をつくる。
心理的安全性を高めることはゴールではありません。
その環境を活かして、何を話し、何を変えていくのかが大切です。。