この記事では、米国の工業用品販売会社ファステナルが、顧客工場の中に商品と社員を配置する「Onsite」をどのように生み出し、成長の原動力にしてきたのかを紹介します。トヨタのかんばん方式、モノタローのネット通販、日本の類似サービスとの違いから、社員の主体的な行動が事業を生み出すプロセスを考えます。

Dash (Akira Chida)
SmartWorks / HLS Global Case Research
― 企業の仕事の仕方を問い、そこからリーダーシップや人材育成への意味を考える。

Peemo (AI Research Partner)
― 公開情報を調べ、社員の行動や組織の仕組みに見られるパターンを整理し、Dashとともに仮説を考える。

売上を伸ばし続ける、知られざる米国企業

Dash:
Peemo、今回はどのような会社を調べたのですか。

Peemo:
ファステナルです。
1967年に米国ミネソタ州で創業した、ねじ、ボルト、工具、安全用品などを扱う工業用品販売会社です。

日本ではあまり知られていませんが、世界各地の製造工場や建設現場を支えています。売上高はこの10年間で約2.1倍に伸び、成長を続けてきました。
直近の年間売上高は約75億ドル、日本円に換算すると約1兆1,000億円規模です。

Dash:
ねじや工具を販売する会社が、なぜそれほど成長できたのでしょうか。

Peemo:
大きな理由の一つが、顧客の現場に深く入り込む「Onsite」と、在庫を使用場所で管理する「FMI」です。

単に多くの商品をそろえたからではありません。社員が顧客の工場へ入り、必要な商品を必要な場所へ届ける仕組みをつくったのです。

顧客の言葉から生まれたOnsite

Peemo:
最初のOnsiteは1992年に始まりました。
ある大規模製造工場では、必要な在庫量が増え、地域のファステナル店舗だけでは保管しきれなくなっていました。
同時に顧客は、ファステナルの担当者に毎日工場内へ入り、現場のニーズを確認しながら在庫を補充してほしいと考えました。

公開資料から当時の会話を一言一句再現することはできませんが、顧客の要望は、次のようなものだったと考えられます。

顧客:
「必要な商品が増え、近くの店舗だけでは対応が難しくなっています。私たちの工場の中に在庫を置き、担当者にも毎日来てもらえませんか」

ファステナル社員:
「それなら、商品を届けるだけでなく、工場内に専用の在庫と担当者を置く方法を考えてみましょう」

ファステナルの社員は、顧客から出された要望を一度限りの特別対応で終わらせませんでした。
顧客工場の中に専用拠点を設け、社員が常駐または定期訪問し、在庫確認、補充、商品提案、使用状況の改善まで行う仕組みにしました。

これがOnsiteの出発点です。

社員の行動が新しい事業をつくった

Dash:
ここで注目したいのは、顧客からアイデアが出たことだけではありません。
顧客の要望を聞いても、「前例がない」「店舗の仕事ではない」と考えれば、そこで終わってしまいます。
ファステナルの社員は顧客の問題を自分たちの問題として受け止め、現場で実行できる仕組みに変えました。

これは『飛びぬけたリーダー』の19のコンピテンシーで見ると、いくつかのリーダーシップ行動に結びつきます。

ファステナル社員の行動対応するELコンピテンシー
顧客の話を聞き、本当の問題を捉える力強く過不足のないコミュニケーション
従来の店舗販売にとらわれず、新しい方法を考える変化を推進する
工場内に在庫と社員を置く仕組みを実行する主体性を発揮する
顧客と一緒に運用方法を改善する協力とチームワークを実践する
一つの顧客で生まれた方法を事業として発展させる戦略的視点から考える
欠品防止や業務効率化という成果に結びつける結果を出すために力を尽くす
現場との接点を深め、長期的な信頼を築く人間関係を築く

社員が顧客のところへ行き、よく見て、話を聞き、試し、改善する。その積み重ねによって、新しい事業モデルが形成されました。

リーダーシップは、役職者だけが示すものではありません。顧客の問題を発見し、従来の仕事の範囲を超えて解決へ動く社員の行動にも表れます。

OnsiteとFMIが顧客満足を高める

Peemo:
Onsiteでは、ファステナルの社員が顧客工場の中で仕事をします。
社員は棚を見て不足品を補充するだけではありません。現場の担当者と話し、商品の使用量や作業方法の変化を捉え、必要な商品や在庫量を提案します。

さらにファステナルは、2008年から産業用自動販売機の展開を始めました。現在はFASTVendなどの機器や在庫管理技術を、FMI(Fastenal Managed Inventory)として提供しています。

OnsiteとFMIを組み合わせることで、次のような価値が生まれます。

  • 必要な商品が、使用場所の近くにある
  • 欠品する前に補充できる
  • 従業員が商品を探す時間を減らせる
  • 誰が、何を、どれだけ使用したか把握できる
  • 過剰在庫や緊急発注を減らせる
  • 現場の変化に応じて品ぞろえを見直せる

Dash:
顧客にとっては、ねじや工具を購入することよりも、「必要なときに商品がない」という問題を防ぐことの方が重要です。

OnsiteとFMIは、販売価格だけでは測れない安心を提供しています。

この高い顧客満足が、取引の継続と拡大につながり、ファステナルが10年間にわたって売上を伸ばしてきた原動力の一つになったと考えられます。

トヨタのかんばん方式、モノタローのネット通販とOnsiteの違い

Dash:
ここで、トヨタのかんばん方式やモノタローのネット通販との違いを整理してみましょう。

トヨタのかんばん方式は、後工程で使用した部品を前工程が補充し、つくり過ぎや余分な在庫を抑える「生産の流れを管理する仕組み」です。

モノタローは、顧客が必要な商品をインターネットで検索し、自分で注文できる「効率的な通信販売」です。幅広い商品から、必要なものを短時間で探して購入できることに強みがあります。

一方、ファステナルのOnsiteは、ファステナルの社員が顧客工場に入り、在庫を管理し、現場のニーズを拾い、商品と改善策を提案する仕組みです。

違いを一言で表すと、次のようになります。

  • トヨタは、部品と生産の流れを管理する
  • モノタローは、顧客からのネット注文に効率よく対応する
  • Onsiteは、社員が顧客の現場に入り、必要なものを先回りして整える

Onsiteは、システムだけでも、ネット通販だけでもありません。

社員による現場対応、商品供給、在庫管理技術を組み合わせたサービスです。

世界に先駆けて始まったOnsite

Peemo:
日本にも、現在ではOnsiteやFMIと共通点を持つサービスがあります。

しかし、公開資料で開始年度を比較すると、ファステナルが非常に早い時期から、この分野を開拓していたことが分かります。

企業・サービス開始年度仕組みの特徴
ファステナル「Onsite」1992年顧客工場内に専用拠点と社員を配置し、ニーズ把握、在庫管理、補充、提案まで行う
ファステナル「FMI・産業用自動販売機」2008年使用場所で商品を管理し、消費状況を把握して補充する
トラスコ中山「MROストッカー」2018年顧客の事業所に商品を預け、使用した分だけ購入する
エスマット「SmartMat」2018年重量センサーで在庫量を把握し、発注や補充を自動化する
ミスミ「MISUMI floow」2025年工場内の在庫を可視化し、補充・発注業務を効率化する
RealStocker開始年未公表バーコードとハンディ端末で入出庫と在庫を管理する

Dash:
現在確認できる公開資料の範囲では、ファステナルは少なくとも日本の主要な類似サービスより26年以上早く、顧客工場内に「商品・在庫管理・担当社員」を一体化して置く仕組みを始めています。

「世界初」とまでは断定できません。しかし、世界に先駆けてこのビジネスモデルを展開し、長い時間をかけて大規模な事業へ育てた企業の一つであることは明らかです。

さらに重要なのは、完成されたシステムを最初から導入したわけではないことです。

始まりは、顧客の困りごとを聞いた社員が、
「それなら、私たちが工場の中に入って対応できないか」
と考え、実際に行動したことでした。

SmartWorks Insight

Dash:
ファステナルの事例から、三つのことが見えてきます。

第一に、顧客の言葉の中に、新しい事業の種があることです。
第二に、その言葉を拾い、前例のない方法を試す社員の主体性が、サービスを生み出すことです。
第三に、一度の成功を個人の経験で終わらせず、再現可能な仕組みにすることで、企業の成長につながることです。

社員が顧客の現場をよく見て、話を聞き、自分で考え、行動する。会社は、その試みを支援し、他の顧客にも展開できるシステムにする。

ファステナルの成長を支えているのは、在庫管理技術だけではありません。

顧客の問題を自分の仕事として捉え、解決へ動く社員のリーダーシップ行動です。

OnsiteとFMIは、社員の主体的な行動を顧客満足につなげ、さらに会社の継続的な成長へ結びつけた事例なのです。

※円換算額は、1ドル=約150円として概算しています。「世界に先駆けて」は公開資料で確認できる比較に基づく表現であり、「世界初」を意味するものではありません。開始年度は、ファステナルのOnsite公式発表、産業用自動販売機の公式発表、トラスコ中山公式資料、ミスミ公式発表などを参照しています。

Akira Chida / Dash
SmartWorks
HLS Global Case Research

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