2024年の日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル、5,720円。OECD加盟38カ国中28位でした。
しかし、この数字は、日本人一人ひとりの能力や勤勉さが低いことを意味しているのでしょうか。

私は、そうではないと思っています。
この問いが、HLS(Human Leadership System)ジャーナルを始める一つの出発点になりました。

日本人の「頑張る力」はどこへ向かっているのか

私が働き始めた頃、日本では長く働くことが勤勉さの証しとされ、テレビでは「24時間戦えますか」という言葉さえ流れていました。

仕事が終わらなければ残業で補う。
急な仕事でも、頼まれれば引き受ける。
周囲が働いていると、自分だけ帰りにくい。
困っている人がいれば、自分の仕事が増えても助ける。

その背景には、日本人の真面目さ、責任感、協調性があります。
これらは日本企業が持っている大切な力だと思います。

しかし、その力が、仕事の仕組みやマネジメントの不備を補うために使われてしまうことがあります。
能力があっても、組織成果につながらない。

例えば、仕事のできる社員に重要な仕事が集中する。
その人は期待に応えようと頑張る。

仕事をやり遂げると、
「やはり、あの人に任せれば大丈夫だ」
となり、さらに仕事が集中します。

営業では、優秀な担当者が顧客情報や成功した提案方法を持っていても、それが他の社員に十分共有されないことがあります。

意思決定でも、現場の社員が顧客の問題に最初に気づいているのに、自分では判断できず、課長、部長、関係部門へと確認が続くことがあります。

一人ひとりは忙しく働いている。
能力もある。
責任感もある。

それでも、組織全体として大きな成果につながらない。

ここに、日本企業の生産性を考える重要なヒントがあるのではないでしょうか。

問題は「人」だけではなく「関わり方」にある

私は、人の能力を高めることだけでは、この問題は解決しないと考えています。

人と仕事の関わり方。
人と組織の関わり方。
そして、人と人との関わり方。

この「関わり方」が、社員一人ひとりの能力を組織の成果へ変える重要な要素ではないでしょうか。

例えば、
仕事の目的を理解して、自分で優先順位を考える。
必要な情報を自ら集める。
分からなければ質問する。
異なる意見を持つ人と話す。
問題そのものが正しいかを考える。
自分で判断する。
判断したら行動する。
そして、結果を振り返り、次の仕事の仕方を変える。

こうした日々の具体的な行動の積み重ねが、生産性につながっていくのではないか。

HLSジャーナルでは、ここを研究していきたいと考えました。

そして、AIが入ってきた

この問題を考えるうえで、今、避けて通れないのがAIです。

生成AIをはじめとするテクノロジーによって、働く人の仕事は急速に変わり始めています。

情報を探す。
データを分析する。
文章を作る。
アイデアを出す。
異なる選択肢を比較する。

これまで人が多くの時間を使っていた仕事を、AIが支援できるようになりました。
しかし、AIを導入すれば、それだけで生産性が高くなるのでしょうか。

私は、そう単純ではないと思っています。

重要なのは、
「AIを導入したか」
ではなく、
「働く人の行動が、AIによってどう変わったか」
ではないでしょうか。

AIと人間の行動をどう結びつけるか

例えば、これまでデータ担当者に分析を依頼していた社員が、AIを使って自分で必要な情報を探せるようになる。

すると、単なる時間短縮だけではなく、その社員の仕事そのものが変わります。

自分で問いを立てる。
AIに質問する。
得られた情報を確認する。
別の可能性を考える。
必要なら他の人の意見を聞く。
そして、自分で判断して行動する。

AIが代わりに考えるのではありません。
AIを使うことで、人間がよりよく考え、よりよく判断し、より速く行動できる可能性があります。

逆に、目的を考えずにAIへ質問し、出てきた答えをそのまま使うだけなら、生産性は一時的に上がっても、働く人自身の判断力が高まるとは限りません。

だからこそ、これからの人材開発では、

「AIの使い方を教える」
だけでは足りないのではないでしょうか。

AIと人間の具体的な行動を、どう結びつけるか。
ここが重要な研究テーマになると考えています。

世界の生産性の高い企業では、社員はどう働いているのか

そこでHLSジャーナルでは、世界の高い成果や生産性を生み出している企業を調べることにしました。

見るのは、制度や経営理念だけではありません。

社員が実際に何をしているのか。
仕事にどう取り組んでいるのか。
どのように情報を集めているのか。
誰と話しているのか。
どのように問題を捉えているのか。
誰が判断しているのか。
判断した後、どう行動しているのか。
結果からどう学んでいるのか。

そして今後は、
AIをどの仕事で使っているのか。
AIによって社員の行動はどう変わったのか。
AIに任せることと、人間が判断することをどう分けているのか。
その結果、時間、品質、意思決定、顧客価値、生産性がどう変わったのか。

ここまでEvidenceを探していきます。

制度ではなく、社員の行動を見る

私は、日本企業の制度を海外企業の制度に置き換えればよいとは考えていません。

企業によって事業も歴史も文化も違います。
だから、海外企業の仕組みをそのまま日本へ持ってきても、うまくいくとは限りません。

それよりも、
「高い成果を生み出している企業の社員には、どのような共通する行動があるのか」
を見つけたいと思っています。

一社だけでは分かりません。
異なる国、異なる業界、異なる企業を見ていく。
そこから共通して現れる働き方や行動を探す。
さらにAIが、その行動をどのように強化したり、変えたりしているのかを調べる。

これが、これからHLSジャーナルで展開していく研究です。

日本人の能力を、組織の成果へ

日本人の生産性が低いのは、日本人の能力が低いからなのでしょうか。
私は、そうではないと思っています。

日本人が持っている真面目さ、責任感、専門性、そして周囲と協力する力。
問題は、それらの力をどのような仕事の仕方へ結びつけるかです。

長く働くことではなく、より大きな価値を生み出す。
指示を待つのではなく、自分で考える。
一人で抱えるのではなく、必要な人や情報とつながる。
過去の正解を繰り返すだけでなく、問い直す。

AIに仕事を任せるだけではなく、AIを使って人間の判断と行動をよりよくする。

日本企業が本来持っている人の力を、組織の成果へどう結びつけるのか。

「日本人の生産性を世界一にするための支援をしたい。」
これが、HLSジャーナルの原点にあります。

これから世界の企業で働く人たちの具体的な行動をEvidenceから調べ、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

皆さんの会社では、AIによって社員の「仕事の仕方」は変わり始めていますか。

Akira Chida (Dash)
SmartWorks
HLS Global Case Research