Microsoftというと、Windows、Azure、Microsoft 365、Copilotなど、製品や技術に目が向きがちです。
しかし、その会社の「仕事の仕方」を知るには、制度や経営者の言葉だけでなく、そこで働く社員が日常的にどのような行動をしているのかを見ることも重要です。
今回は、MicrosoftのHackathonやGarageなどに見られる社員の行動に注目します。
部署や専門の壁を越えて人を集める。
分からなければ聞く。
試して、失敗して、学び、またやり直す。
こうした行動は、なぜMicrosoftの中で生まれているのでしょうか。
DashとPeemoの対話を通して、MicrosoftのSmart Workを社員の行動から見ていきます。
「自分の仕事ではない」と言わない社員たち
Dash:
Peemo、Microsoftを会社の制度やCEOの言葉からではなく、社員が実際に何をしているかという視点で見てみよう。
何か面白い行動は見えてきた?
Peemo:
かなりあります。
例えばMicrosoftのHackathonでは、普段まったく違う仕事をしている社員同士が集まります。
エンジニアだけではありません。
営業、マーケティング、デザイナー、研究者。
国も違う。
部署も違う。
専門も違う。
それでも、一つのアイデアを実現するために、自分たちでチームをつくります。
Dash:
会社から「このメンバーでやりなさい」と言われるのではない?
Peemo:
そうではありません。
自分のアイデアを持ち込む社員もいれば、面白そうなテーマを見つけて参加する社員もいます。
自分に足りない専門性があれば、
「それをできる人はいないか」
と探します。
知らない社員にも声をかけます。
そして、一緒に仕事を始めます。
Dash:
面白いね。
日本の会社だったら、
「それは、うちの部署の仕事ではありません」
となる場面もありそうだ。
ここで起きているのは、HRでよく言われる「部門横断の協働」や「サイロの打破」だね。
しかも、会社に言われて協働するのではなく、社員自身が必要な人を探している。
「自律的に考え、行動する人材」
という観点でも興味深い。
Peemo:
Microsoftでは、少なくともHackathonやGarageの活動を見る限り、むしろ逆の行動が見えてきます。
「自分の仕事ではない」ではなく、
「自分が気づいたから、やってみる」。
自分のアイデアを守らない
Dash:
チームをつくった後はどうなる?
Peemo:
最初のアイデアが、そのまま最後まで残るとは限りません。
試してみる。
人に見せる。
フィードバックをもらう。
うまくいかなければ変える。
また試す。
自分が考えた案だからといって、最後まで守り続けるわけではありません。
Dash:
自分の案を否定されたら、普通は少し抵抗したくなるよね。
でも、自分の考えに固執せず、フィードバックを受けて変えられる。
これは今、人材育成で重視されているLearning Agility(学習俊敏性)にもつながりそうだ。
学んだ量より、
経験からどれだけ早く学び、行動を変えられるか。
そこを見た方が面白そうだね。
Peemo:
Microsoftでは、
「違っていたら、変える」
という行動がかなり見えてきます。
失敗そのものも、終わりとして扱うのではなく、
「次に何を変えるかを考える材料」
として扱っています。
「分からない」と言える
Dash:
もう一つ気になる。
Microsoftでは昔から優秀な人が多いイメージがある。
優秀な人ほど、「分からない」と言いにくくないかな?
Peemo:
そこもMicrosoftの文化変化を見ると興味深いところです。
後にMicrosoftでは、
“know-it-all”ではなく“learn-it-all”
という考え方が強く打ち出されます。
何でも知っている人であることを示すより、
知らないことを認めて、学ぶ。
社員の行動として見ると、
分からなければ聞く。
違う意見を聞く。
自分の考えを修正する。
ということになります。
Dash:
つまり、優秀さを
「知っている量」
だけで示さないわけだ。
それに、上司が「私も知らない」「教えてほしい」と口にしてくれれば、部下も構えなくなるね。
分からないことを言える。
違う意見を出せる。
間違いを認められる。
これは、今HRで重要視されている「心理的安全性」につながる行動だね。
心理的安全性は、単に「仲の良い職場」をつくることではなく、
分からない。
違う。
失敗した。
助けてほしい。
と言えるところから生まれるのかもしれない。
Peemo:
そう見えます。
上司も「答えを持っている人」ではない
Dash:
社員だけではなく、上司はどうだろう?
Peemo:
Microsoftでは、マネージャーの役割として
Model, Coach, Care
という考え方が使われています。
特にCoachという点では、上司がすべての答えを与えるのではなく、
部下に問いかける。
話を聞く。
本人が考えられるよう支援する。
という行動が重視されています。
Dash:
ということは、
「上司だから答える」
から、
「上司だから考えさせる」
への転換だね。
これはHRでいう「コーチング型マネジメント」に近い。
さらに大事なのは、上司が部下の答えをつくるのではなく、
本人が自分で考え、判断し、行動できるようにすること。
今、日本企業でも重視されている「自律的成長」や「キャリア自律」ともつながってくるね。
役職がなくても動く
Peemo:
もう一つ面白いのは、リーダーという肩書きがない社員でも、
問題に気づく。
人を集める。
アイデアを提案する。
試してみる。
周囲を巻き込む。
という行動をしていることです。
Dash:
それは、かなりリーダーシップらしい行動だね。
そしてここは、これからの「次世代リーダー育成」を考えるうえでも面白い。
リーダーになってから初めてリーダーシップを発揮するのではなく、
役職に就く前から、日常の仕事の中でリーダーシップ行動をしている。
「誰をリーダーに選ぶか」だけではなく、
社員一人ひとりからリーダーシップ行動をどう引き出すか
という人材育成の考え方も必要になるのかもしれないね。
Peemo:
ただ、ここではまだ分析しすぎない方がいいと思います。
まず見えているのは、Microsoftでは社員が、
自分で考える。
知らない人に聞く。
異なる人と組む。
試す。
失敗する。
学ぶ。
もう一度やる。
という行動を繰り返している、ということです。
Microsoftの中で、何が社員をそう動かしているのか
Dash:
外からMicrosoftを見ると、
Windows。
Azure。
Microsoft 365。
Copilot。
製品や技術ばかりが目に入る。
でも、社員に近づいてみると、違う会社の姿が見えてくるね。
Peemo:
はい。
社員の行動だけを見ると、
「自分の担当」を越える。
「自分の専門」を越える。
「自分の答え」に固執しない。
「失敗」を隠さず次に使う。
という姿が見えてきます。
Dash:
並べてみると、今のHRが追いかけているキーワードがたくさん入っているね。
心理的安全性。
自律的成長。
部門横断の協働。
Learning Agility。
コーチング型マネジメント。
次世代リーダー育成。
でも、Microsoftの社員が毎朝こうした言葉を意識して働いているわけではないだろう。
むしろ重要なのは、
なぜ結果として、こうした行動が日常の仕事の中から現れるのか。
そこかもしれないね。
個人の能力なのか。
企業文化なのか。
マネージャーの行動なのか。
それとも、Microsoftの中にある
「問い方」や「考え方」
が関係しているのか。
Peemo:
そこが、次に考えてみたいポイントです。
社員の主体的な行動を、文化や制度だけでなく、日常の「問い方」「考え方」「対話の仕方」がどのように支えているのか。
MicrosoftのSmart Workを理解するうえで、もう一段深く見ていく価値がありそうです。
Akira Chida / Dash
SmartWorks
HLS Global Case Research