「問い」は、従業員のリーダーシップ行動を引き出す触媒ではないか

仕事の仕方を変える。Smart Workを実現する。

NVIDIAについて調べる中で、私たちは一つの興味深い事実に注目しました。

Jensen Huang氏自身のリーダーシップだけではありません。

むしろ重要なのは、NVIDIAの従業員が、日常の仕事の中でどのような行動をしているのか、という点です。

NVIDIAでは、前提を問い直す、分からないことを確認する、異なる意見を出す、専門分野を越えて協働する、自ら判断する、リスクを取る、失敗から学ぶ、成功してもさらに改善点を探す、といった行動が見えてきます。

そこで私たちは、これらの従業員行動を、SmartWorksが長年提供してきたZenger Folkmanの「飛び抜けたリーダー」の研究と照らしてみることにしました。

すると、非常に興味深いつながりが見えてきました。

トップ10%のパフォーマーが実行している19のリーダーシップ行動

「飛び抜けたリーダー」では、トップ10%の高いパフォーマンスを示すリーダーに見られる行動を、5つの領域・19のコンピテンシーとして整理しています。

重要なのは、これらが単なる知識や性格ではなく、実際に発揮されるリーダーシップ行動だという点です。

今回、NVIDIAの公開情報から見えてくる従業員の行動を、この19のコンピテンシーと照らしてみました。

5つの項目19のコンピテンシーNVIDIAの従業員に見られる「問い」に関する行動つながりの見方
人格1. 誠実かつ正直である自分たちが何を知っていて、何を知らないのかを認め、前提や不足を問い直す良い問いを立てるには、まず「分かっていないこと」を正直に認める必要がある
個人の能力2. 業務や専門分野の見識と判断専門知識を土台に、「何が起きているのか」「何が可能なのか」を問う専門性が、より深く質の高い問いにつながる
3. 問題解決や課題分析をする問題をそのまま受け入れず、事実・前提・原因・未知の点を問い直す問いが問題の構造を明らかにし、分析と問題解決を促す
4. 柔軟に新しいものを取り入れる従来のやり方や他社の方法をそのまま受け入れず、「なぜこの方法なのか」を問い直す既成概念への問いが、新しい考え方や方法を取り入れる入口になる
5. ラーニングアジリティ(柔軟かつ機敏に学習する)失敗だけでなく、成功後にも「もっと良くできたことは何か」を問う問いによって経験を学習材料に変え、次の行動へつなげる
結果指向性6. 結果を出すために力を尽くす「この仕事は本当に重要か」「価値を生んでいるか」を問う問いによって、単なる作業ではなく成果につながる仕事へ集中する
7. 高い目標を設定する「さらに良くできないか」「もっと高い水準を目指せないか」と問う現状を当然としない問いが、より高い目標を生み出す
8. 率先する問題に気づいた従業員が、指示を待つだけでなく自ら動く問いによって「自分に何ができるか」が明確になり、主体的行動につながる
9. 意思決定するデータ、前提、既知・未知を確認したうえで自ら判断する良い問いが判断材料を明確にし、意思決定の質を高める
10. リスクを取る挑戦するリスクだけでなく、挑戦しないリスクも考えて行動する問いによってリスクを多面的に捉え、必要な挑戦を選択する
対人関係スキル11. 力強く過不足のないコミュニケーションをする自分の考え、問題、重要な情報を簡潔かつ率直に伝える問いに答える過程で考えが整理され、コミュニケーションが明確になる
12. 高いパフォーマンスに向けて他者を動機づける「なぜこの仕事をするのか」「何が重要なのか」を問い、仕事の意味を共有する問いによって目的が明確になり、人を高い成果へ向かわせる
13. 人間関係を築く分からないことを必要な人に聞き、部門や階層を越えて対話する問うことが人との接点を生み、関係を広げる
14. 他者の能力を伸ばすすぐに答えを教えるだけでなく、問いによって相手自身に考えさせる問いが相手の思考を促し、自ら答えを見つける力を育てる
15. 協働とチームワークを実践する異なる専門分野の従業員が同じ問題を問い、共同で解決する一人では答えられない問いが、専門性を持ち寄る協働を促す
16. 多様性を尊重する役職や立場にかかわらず、異なる意見や疑問を出す多様な問いを受け入れることで、異なる視点が意思決定に入る
変化をリードする17. 戦略的視点で考える「会社とは何か」「何をインプットし、何をアウトプットするのか」まで問いを広げる問いの範囲を目の前の問題から、組織全体・将来へ広げる
18. 変化を推進する「なぜ従来通りなのか」を問い直し、仕事の仕方や組織のあり方を変える現状への問いが、変革を始めるきっかけになる
19. 顧客と外部にフォーカスする顧客、市場、技術、社会で「何が変わっているのか」を問う外部への問いによって、内向きの判断を防ぎ、環境変化への適応を促す

この表を作っていて、私たちは一つのことに気づきました。

「問い」は、20番目の新しいリーダーシップ・コンピテンシーなのではありません。

むしろ、問いをきっかけにして、

考える。
人と対話する。
判断する。
行動する。
学ぶ。
変化を起こす。

その過程で、トップ10%のパフォーマーに見られる19のリーダーシップ行動が発揮されていくのではないでしょうか。

リーダーシップ行動を引き出す“触媒”

と捉えてみることにしました。

化学反応における触媒は、それ自体が最終的な成果物になるわけではありません。

しかし、触媒が存在することで、反応が起こりやすくなります。

組織でも、同じようなことが起きているのではないでしょうか。

良い問いを投げかけられると、人はそのままではいられません。

「本当にそうなのか」
「何が分かっていないのか」
「証拠は何か」
「もっと良い方法はないか」
「自分は何をすべきか」

そう問われることで、従業員は考えます。

そして、考えるだけではなく、

事実を調べる。
人に聞く。
異なる意見を出す。
自分で判断する。
周囲と協働する。
行動する。
結果を振り返る。
必要なら仕事の仕方を変える。

こうした行動が引き出されていく。

それらはまさに、「飛び抜けたリーダー」で確認されている19のリーダーシップ行動と重なります。

今回のHLS Insight

ここで特に重要なのは、従業員です。

リーダーシップを、管理職や一部の選抜人材だけが発揮するものとして考えるのではありません。

役職に関係なく、一人ひとりの従業員が、

考える。
問う。
判断する。
人を巻き込む。
行動する。
学ぶ。
変化を起こす。

そのような仕事の仕方が日常化すれば、組織全体のリーダーシップ能力は大きく変わるはずです。

「優れたリーダーを育てる」から、「リーダーシップ行動が生まれる仕組み」へ

従来のリーダーシップ開発では、
「優れたリーダーを育てる」
ことが中心に置かれてきました。

もちろん、それはこれからも重要です。

しかしHuman Leadership Systemという視点から考えると、もう一つの可能性が見えてきます。

これは、「優れた人を選び、育てる」という考え方から、
「普通の従業員から優れた行動が生まれやすい仕事の仕組みをつくる」
という発想への広がりです。

そしてNVIDIAを調べる中で、その一つの鍵として見えてきたのが、

という仕事の仕方でした。

NVIDIAだけなのか

ただし、私たちはこれをまだHuman Leadership Systemの普遍的な原則とは考えていません。

今回、NVIDIAを研究したことで見えてきた一つのHLS Insight、そして仮説です。

次にMicrosoft、Netflix、Amazonなどを調べていく中で、
質の高い問いは、本当に従業員のリーダーシップ行動を引き出す触媒になっているのか。
トップ10%のパフォーマーに見られる行動は、高業績企業では一般の従業員の日常行動にも現れているのか。
を確かめていきたいと思います。

一社を見る。
Insightを見つける。
次の企業で検証する。
違いを見る。
必要なら仮説を修正する。

HLS Global Case Researchは、このプロセスを繰り返していきます。

NVIDIAから得た今回のHLS Insight

質の高い問いは、トップ10%のパフォーマーに見られるリーダーシップ行動を、従業員の日常の仕事の中から引き出す“触媒”なのかもしれません。

次の企業研究で、この仮説をさらに確かめていきます。

Akira Chida / Dash
SmartWorks
HLS Global Case Research

注記

NVIDIAがZenger Folkmanの「飛び抜けたリーダー」を導入していることを示すものではありません。また、NVIDIAの全従業員が19のコンピテンシーすべてを実行していると断定するものでもありません。本稿は、NVIDIAに関する公開情報から確認できる従業員行動と、「飛び抜けたリーダー」の19コンピテンシーを照らし合わせたSmartWorks独自の分析・考察です。