答える前に、ちゃんと問う。

AI時代に問われる「問いの質」と、学習する組織
仕事の仕方を変える。Smart Workを実現する。

生成AIの進化によって、「答えを得ること」は急速に容易になりました。

知りたいことを入力すれば、AIは短時間で情報を整理し、選択肢を示し、文章をつくり、分析までしてくれます。

では、AIが答えてくれる時代に、人間には何が求められるのでしょうか。

世界を代表するAI企業の一つであるNVIDIAを、Human Leadership System(HLS)の視点から調べていくと、一つの興味深い
テーマが浮かび上がってきます。

それは、
「答えをたくさん知っていること」以上に、「何を問うべきかを見抜くこと」が重要になるのではないか。
ということです。

今回のNVIDIA研究から見えてきたHLS Insightを、私たちはこう表現します。

答える前に、ちゃんと問う。

Jensen Huang氏は、なぜ「問い」を重視するのか

NVIDIA創業者兼CEOのJensen Huang氏は、Stanford Graduate School of Businessで、自身の意思決定や組織づくりについて
語っています。

そこで重要な考え方として登場するのが、First-Principles Thinking(第一原理思考)です。

他社がどうしているかをそのまま出発点にするのではなく、

「今の条件なら、どうやり直すか」
「そもそも何を実現するためのものなのか」

という根本まで戻って考える。

Huang氏は、製品や技術だけではなく、組織設計についても同じように考えています。

そして、組織について語る中で、非常に印象的な言葉を述べています。

“I would like them to question everything.”
社員には、すべてを問い直してほしい。

Huang氏は、社員が状況の文脈を理解し、情報を持ち、自分で考えられることを重視しています。そのため、自ら「事実は何か」
「データは何か」「想定は何か」「分かっていること、分かっていないことは何か」を示しながら、考え方そのものを共有すると
説明しています。

Jensen Huang氏のStanford GSBでの対話

「なぜ、違う会社が同じ組織構造なのか?」

Huang氏の話し方を見ていると、特徴的なのは、すぐに答えへ進まないことです。

組織について考える際にも、さまざまな角度から問いを立てています。

NVIDIAは何をつくる会社なのか。
異なるものをつくっている会社が、なぜ同じような組織構造を採用するのか。
組織へのInputは何か。
Outputは何か。
その組織が置かれている環境には、どんな特徴があるのか。

つまり、最初から
「最適な組織図はどれか」
と答えを探しているわけではありません。

一度、
そもそも、この組織は何を実現するために存在するのか。
というところへ戻っています。

ここに、NVIDIAのSmart Workを考える重要な手掛かりがあります。
答えを探す前に、何を問うべきかを見直している。
ということです。

成功したときこそ、「もっと良くできたことは何か」

Jensen Huang氏の問い方を示す、もう一つ興味深い例があります。

実際にチームに投げかけたと紹介されている質問です。

「もっとうまくできたことは何か」

この問いが投げられたのは、失敗した後ではありません。

製品発表が好意的に受け止められた、つまりうまくいった後でした。

失敗したときであれば、多くの人が問題点を探します。

しかし、成功したときにも、
「もっと良くできたことはなかったか」
と問えるか。

そこには、
成功したという結果と、自分たちの仕事の質を分けて見る姿勢
があります。

成功していても、不足していたことを認められるか。
十分ではなかった理由を説明できるか。
そこから次の改善につなげられるか。

この問いには、その人やチームの知識量だけではなく、自らの不足を直視し、学び続ける姿勢が表れます。

NVIDIAは自らを「Learning Machine」と表現する

こうした考え方は、Jensen Huang氏個人だけにとどまりません。

NVIDIAは公式サイトで、
“We are a learning machine.”
と自社を表現しています。

同時に、
“The mission is boss.”
“Everyone has a voice.”
とも掲げています。

ここで重要なのは、
良い質問をするCEOがいるだけでは、「Learning Machine」にはならない
ということです。

リーダーが問いを投げる。
社員も問いを返す。
分からないことを認める。
事実を確認する。
自分たちの想定を疑う。
異なる意見を出す。
答える。
行動する。
結果を振り返る。
そして、そこからまた新しい問いが生まれる。

こうした動きが組織の中で繰り返されて、初めて「問い」が学習につながっていくのではないでしょうか。

PQA ― Precision Questioning & Answeringとの共通点

ここで、SmartWorksが長年提供してきたPrecision Questioning & Answering(PQA)との関係を考えてみます。

PQAは、単なる質問話法ではありません。

より精密な質問と回答を通じて、
何を知っているのか。
何を知らないのか。
次に何を知る必要があるのか。
を明らかにしながら、考えを深めるための思考フレームワークです。

PQAでは、問いを大きく7つのカテゴリーから捉えます。

PQA 7つの質問カテゴリー

フォーカス
今、何について考える必要があるのか。
本当の論点は何なのか。

明確化
それは具体的に、どういう意味なのか。
曖昧な言葉や内容を明らかにする。

想定
私たちは何を当然だと思っているのか。
どのような前提を置いているのか。

証拠
なぜ、それが正しいと言えるのか。
その判断を支える事実、データ、根拠は何か。

原因
なぜ、それが起きているのか。
何がその状態を生み出しているのか。

結果
このまま進めたら、何が起きるのか。
どのような影響や結果が生じるのか。

行動
では、何をするのか。
誰が、何を、どのように行うのか。

PQAの資料でも、「意味を明確にする」「何を想定しているのか」「なぜそれが真実だと分かるのか」といった問いが整理されています。

7カテゴリーは「順番」ではない

ここは、PQAを理解するうえで非常に重要です。

この7つは、
フォーカスから始めて、明確化、想定、証拠……と順番に進むための手順ではありません。
状況によって、どのカテゴリーから入っても構いません。

たとえば、会議の冒頭で、
「この施策を実行したら、顧客にはどんな影響が出るだろう?」
と、いきなり結果から入ることがあります。

あるいは、
「では、誰が明日までに何をするのか?」
と、まず行動を確認し、その行動が本当に妥当なのかを検討するために、

「そもそも、なぜそれをするのか」
フォーカス証拠へ戻ることもあります。

また、

「その数字の根拠は何ですか?」
という証拠の質問から始めた結果、

「そもそも、その数字で何を判断しようとしているのか?」
というフォーカスへ移ることもあります。

つまり、7カテゴリーは一本の階段ではありません。
考えるための7つの「レンズ」である
と捉える方が適切です。

そのとき必要なレンズを使う。

別の角度から見る必要があれば、別のカテゴリーへ移る。

そして必要なら、何度でも前のカテゴリーへ戻る。

PQAの強みは、この柔軟性にあります。

Jensen Huang氏の問いを7つのカテゴリーから見る

このように考えると、Huang氏の問い方とPQAの共通性がより見えやすくなります。

たとえば、
「NVIDIAは何をつくる会社なのか」
という問いは、フォーカスや明確化のレンズから見ることができます。

「違うものをつくる企業が、なぜ同じ組織構造なのか」
という問いは、私たちが無意識に置いている想定を揺さぶっています。

「Inputは何か。Outputは何か」
は、何を扱っているのかを明確化する問いです。

また、

「これまで信じていたことの何かが変わったのか」
というHuang氏の考え方は、事実や証拠を再確認することにつながります。

そして、
「もっと良くできたことは何か」
という問いは、状況によっては、
原因、結果、行動、証拠、想定など、複数のカテゴリーへ対話を広げていくことができます。

つまり、一つの質問を一つのカテゴリーに固定する必要もありません。

問いによって思考が動き、その中で必要な角度へ切り替えていく。

これこそ、PQAを実際に使うときの重要な特徴です。

NVIDIAがPQAを使っている、と言っているわけではない

ここは明確にしておかなければなりません。

現時点では、
NVIDIAがPQAを正式に導入しているという公開情報は確認できていません。

また、
Jensen Huang氏自身がPQAを学んだという事実も確認できていません。

したがって、
「NVIDIAはPQAを実践している」
と結論づけることはできません。

私たちが注目しているのは、
異なるところから生まれた考え方の中に、共通する思考の構造が見える
ということです。

良い答えを急ぐ前に、

問いを立てる。
意味を確かめる。
想定を疑う。
証拠を見る。
原因を探る。
結果を考える。
行動を検討する。

そして必要に応じて、再び別の角度から問い直す。

その柔軟な思考の動きに、PQAとの共通性が見えてきます。

「知っているつもり」が、考えることを止める

PQAが扱う重要なテーマの一つに、Illusion of Knowledge(知識の錯覚)があります。

簡単に言えば、
「自分では分かっていると思っている。しかし、実際には十分に分かっていない」
という状態です。

PQAでは、質問と回答を精密にすることで、
何を知っているのか。
何を知らないのか。
を区別していきます。

Huang氏もStanfordで、自ら考え方を共有するときに、
事実、データ、想定、既知のこと、未知のこと
を区別して説明すると語っています。

ここにも大きな共通点があります。

分かったつもりで、次へ進まない
ということです。

HLSで見るNVIDIAの「問いと学習」

ここでPQAの7カテゴリーと、HLSとして考える学習の循環は、分けて考える必要があります。

PQAの7カテゴリーには、決まった順番はありません。

一方、組織全体を見れば、

問いが生まれる。
対話する。
考える。
答えを出す。
行動する。
結果を見る。
振り返る。
学ぶ。
そして新しい問いが生まれる。

という学習の循環は存在します。

つまり、NVIDIAから見えてくるのは、

Question → Dialogue → Action → Reflection → Learning → Better Question

というような組織学習の動きです。

その中でPQAの7つのカテゴリーは、必要なときに使う
「思考を深めるための道具」
として位置づけられます。

これは重要な違いです。

AI時代には、「答える力」より「問う力」なのか

私たちは、
「これからは答える力はいらない」
と言っているわけではありません。

むしろ、
問いと答えの両方の質が、これまで以上に重要になる
と考えています。

生成AIは、問いを与えれば非常に速く答えを返してくれます。

しかし、

問いの前提が間違っていればどうでしょうか。

本当の問題とは違うことを聞いていたらどうでしょうか。

AIが提示した根拠が十分でなかったらどうでしょうか。

そこで人間には、

今、本当に考えるべきことは何か。

この言葉は何を意味しているのか。

どんな想定を置いているのか。

その証拠は十分か。

何が原因なのか。

どんな結果が起こり得るのか。

では何をするのか。

という複数のレンズを使い分ける力が必要になります。

必要なのは、7つを順番にAIへ質問することではありません。

今の状況で、どの問いが必要なのかを判断すること

です。

ここに、人間の思考の重要な役割が残ります。

「自律型人材を育てる」とは、問いを持てる人を育てること

この問題は、人的資本経営や人材育成にもつながります。

日本企業では現在、

人的資本経営、
自律型人材、
リスキリング、
AI/DX人材育成、
心理的安全性、

といったテーマが重視されています。

しかし、
「自分で考えてください」
と言うだけでは、自律的に考える人は育ちません。

上司が毎回答えを与える組織では、
「正解は上司が持っている」
という学習が起こります。

反対に、

「あなたはどう考える?」
「何を根拠にそう判断した?」
「他にどんな見方がある?」
「このまま進むと何が起こる?」
「では、どうする?」

と問いかけられ、自分自身も問いを立てる経験を重ねれば、

答えを待つ人から、自分で考える人へ
変わっていく可能性があります。

NVIDIAの「Everyone has a voice」という文化も、このような組織学習を支える条件の一つとして考えることができます。

明日の会議で、どこから問うか

PQAを使うときに、
「まずフォーカスを聞かなければならない」
と考える必要はありません。

たとえば会議で、
「この案で進むと、半年後に何が起こるでしょう?」
という結果の問いから始めてもいい。

その答えを聞いて、
「そう考える根拠は何ですか?」
証拠へ移る。

さらに、
「その予測では、何を前提にしていますか?」
想定へ進む。

そこで重要な前提が間違っていると分かれば、
「では、そもそも今解くべき問題は何ですか?」
フォーカスへ戻る。

そして最後に、
「では次に何をしますか?」行動を考える。

別の会議では、行動から入るかもしれません。

また別の場面では、明確化から始まるかもしれません。

大切なのは、
7カテゴリーを順番に使うことではなく、必要な問いを必要なときに使うこと
です。

HLS Insight

答える前に、ちゃんと問う。

今回NVIDIAを研究する中から、
「答える前に、ちゃんと問う。」
という一つのHLS Insightが見えてきました。

しかし、私たちはこれを、現時点でHLSの普遍的な原則だと決めているわけではありません。

これが、
NVIDIA固有の仕事の仕方なのか。
それとも、
世界の優れた企業に共通するSmart Workの原則なのか。

今後、Microsoft、Netflix、Amazonなどの企業も調べながら、この仮説を確かめていきます。

一つの企業を調べる。
そこからInsightを見つける。
次の企業で確かめる。
違いがあれば、仮説を修正する。
共通するものが見えてくれば、さらに別の企業でも検証する。

そうして、
人と組織が、より生産性高く、より良く働くためには、どのような仕組みが必要なのか
を少しずつ明らかにしていく。

それがSmartWorksの
HLS Global Case Research
です。

Dash × Peemo|HLS Global Case Research

Dash
千田 彰。SmartWorks代表。企業のリーダーシップ開発・人材育成に長年携わり、世界の優れた企業の働き方をHLS ―
Human Leadership Systemの視点から研究しています。

Peemo
DashのAI Research Partner。企業、リーダーシップ、組織文化などの公開情報を調査・整理し、Dashとの対話を通じて
HLSのInsightや仮説を形にする役割を担います。

※NVIDIAがPQAを正式導入していること、またJensen Huang氏がPQAを学んだことを示す公開情報は、現時点では確認
できていません。本記事は、公開情報とPQAの考え方を比較したSmartWorks独自の分析・考察です。

Akira Chida / Dash
SmartWorks
HLS Global Case Research