人間の脳は驚くほどの知能を備えていますが、
私たちは、周囲にある情報をすべて同じように見たり、聞いたりしているわけではありません。
多くの情報の中から、そのとき重要だと思ったものや、関心を向けているものを選んで認識しています。
歩きスマホでいえば、スマホに夢中になって、踏切の警報が聞こえなくなったり、
聞こえていても、それが危険を告げる合図だと認識するところまで至らなかったりするわけです。
上司が見ている部下は、部下のすべてではない
これは人材開発でも重要なポイントです。
たとえば、部下を育成する上司の視点で考えてみましょう。
上司が部下にコーチングやフィードバックをするとき、
上司が部下について見たり聞いたりしていることも、
実際に起きていることの一部にすぎません。
研修の中でこれを実際に体験してみると、全員があきれて笑い出してしまうほど、
私たちが見ていない、聞いていないことがわかります。
しかも厄介なのは、見えていないものは、気がつきにくいということです。
だからこそ、まず
「自分が見ているものがすべてではない」
と真面目に受け止めることが、
部下と対話したり、フィードバックしたりするためのスタート地点になります。
私たちは、見えているものを材料に考えている
この問題は、部下育成に限りません。
会議で何が問題なのかを考えるときも、
顧客の反応を解釈するときも、
何かを判断するときも、
私たちは自分が認識した情報を材料に考えています。
ところが、その材料自体が、すでに自分の関心や経験、前提によって選ばれたものかもしれません。
優秀な人であっても、この脳のしくみから自由になるわけではありません。
むしろ、限られた情報から素早く考え、判断できることが、仕事では強みになることもあります。
問題になるのは、自分が見ているものと、実際に起きていることを同じものだと思ってしまうときです。
思考の死角を知る
適切な判断をするためには、知識や経験を増やすだけでなく、
自分が見ているものだけを材料に考えていないかを確かめることも必要です。
どれほど優秀なパフォーマーや上司であっても、人間の認知には死角があります。
その死角の存在を知り、
自分の思考を確かめるための方法を身につけることは、
判断の質を高める助けになります。
人間の脳は、驚くほど多くのことを考え、判断することができます。
一方で、自分が見ているものが現実のすべてではないことには、なかなか気づけません。
とても優れた装置だからこそ、その死角を知って使うことが大切なのかもしれません。