自分のためにはやめた方がいい。少なくとも、減らした方がいい。
そう頭では十分にわかっているのに、なかなかやめられないものを
一つ思い浮かべてみてください。
甘いもの。お酒。夜遅くまでスマートフォンを見ること。
人によって、いろいろあるでしょう。
では、今日からやめてください。
……できるでしょうか。
「やめた方がいい」と理解しているのですから、できてもよさそうなものです。
けれども、私たちはそんなに簡単には変わりません。
知っていることと、実際に行動することの間には隔たりがあります。
この状態が人材育成の現場でKnowing-Doing Gapとして
知られているものであることに、お気づきの方もいらっしゃるでしょう。
そして、このギャップを考えるときに見落とされやすいものの一つが、習慣です。
やり方を知っていても、行動が変わるとは限らない
人材育成でも、同じことが起こります。
たとえば、部下の話をよく聞くことが大切だと理解しているマネジャーがいたとします。
相手の話を遮らない。
すぐに自分の意見を言わず、まず相手の考えを聞く。
その方法も知っているし、練習すれば実際にできる。
本人も「これからはもっと部下の話を聞こう」と思っている。
それでも、忙しい職場に戻り、部下から相談を持ちかけられると、
「つまり、こういうことだね」
「だったら、こうすればいい」
と、いつものように自分で結論を出してしまうかもしれません。
知らないわけではありません。
できないわけでもありません。
変える気がないとも限りません。
それでも、以前から繰り返してきた行動に戻ることがあります。
習慣は、悪いものではない
私たちは、毎回すべての行動を一から考えて選んでいるわけではありません。
仕事を始めるたびにパソコンの操作を一つひとつ考えたり、
毎朝、歯の磨き方を最初から検討したりしていたら、
それだけで一日が終わってしまいそうです。
繰り返してきた行動の多くは、いちいち考えなくてもできるようになります。
習慣は、私たちが効率的に生活し、仕事をするために役立っています。
しかし、行動を変えようとするときには、
その便利さが壁になることがあります。
これまで何度も繰り返してきた状況では、
これまで何度も繰り返してきた行動が出やすい。
新しい方法を一度理解したからといって、
それまでの行動が消えてなくなるわけではありません。
「明日からこうする」と決めるだけでは足りないことがある
研修の最後に、アクションプランを作ることがあります。
「明日から部下の話を最後まで聞く」
「会議では自分から発言する」
「部下にもっとフィードバックする」
何を実践するかを明確にすることは大切です。
ただし、新しい行動を決めることと、
その行動が実際の場面で繰り返されるようになることは同じではありません。
職場に戻れば、いつもの仕事があります。
忙しいとき。
余裕がないとき。
意見の合わない相手と話すとき。
予想していなかったことが起きたとき。
そうした場面ほど、これまで身についた行動に戻りやすくなります。
だから、行動変化を目的にするのであれば、「何をするか」を決めるだけではなく、
新しい行動が実際に起こり、繰り返されるところまで考える必要があります。
本来、人材育成の目的は、「知っている人」を増やすことではない
リーダーシップ、コミュニケーション、マネジメントなどを学ぶとき、知識はもちろん必要です。
新しい考え方を知ることで、それまで見えていなかったものが見えることもあります。
しかし、実際の仕事で必要なのが行動であるなら、理解したところで終わることはできません。
方法を理解する。
実際にできるようになる。
職場で使う。
そして、必要な場面でその行動をとれるようになる。
そこには、それぞれ違う課題があります。
「わかった」から「できる」へ。
「できる」から「実際にやる」へ。
その間をどうつなぐのかを考えることが、人材育成では重要です。
行動が変わらない理由は、習慣だけではない
もちろん、習慣だけを見ればよいわけではありません。
新しい行動をとるための能力がまだ十分でないこともあります。
実践する機会がないこともあります。
上司や周囲の言動、仕事の進め方、評価のあり方などが、新しい行動を妨げていることもあります。
人の行動は、一つの理由だけで決まるものではありません。
だからこそ、行動が変わらないときに、
「本人の意識が足りない」
「もっと勉強させよう」
「アクションプランを書いたのだから、あとは本人次第」
と考える前に、
何がその行動を生み、
何が変化を妨げているのかを見ること
が大切です。
Knowing-Doing Gapは、「人は知っているだけでは行動しない」という話だけではないからです。
古い行動を変え、
新しい行動を実際の仕事の中で使えるようにするには
何が必要なのか。
そこまで考えて初めて、学んだことを職場の変化につなげることができます。
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