人材育成について話していると、
「今回は、まず意識づけをしたい」
という言葉を聞くことがあります。
それ自体に問題があるわけではありません。
新しい考え方を知る。
これまでとは違う視点に気づく。
自分にも関係のあることだと感じる。
そうした変化が、次の行動へのきっかけになることもあります。
すべてを一度に変える必要もありません。長い時間をかけて人を育てていくなら、まず意識が変わることを目指す段階もあるでしょう。
ただ、「意識づけ」を目的にするとき、一つ考えておきたいことがあります。
何について、どのような意識を持ってもらいたいのでしょうか。
そして、もう一つ。
その意識の変化は、その先の何につながっていくのでしょうか。
「意識が変わる」とは、何が変わることなのか
たとえば、将来のリーダー候補に、
リーダーシップについての意識を高めてもらいたいとします。
「リーダーシップの重要性を理解してほしい」
これだけでは、まだ少し曖昧です。
研修を受けた後、
「リーダーシップは役職者だけの話ではなく、自分にも関係するものだ」と感じてほしいのか。
「自分の現在のリーダーシップについて考えてみよう」と思ってほしいのか。
「この分野について、もっと自分で学んでみたい」と思ってほしいのか。
同じ「意識づけ」という言葉でも、期待している変化はかなり違います。
何が変われば「意識が変わった」と言えるのか。
そこが明確になると、研修で何を扱うべきかも少しずつ見えてきます。
意識が変わった。その次に何が起きてほしいのか
もう一つ考えたいのは、その変化の先です。
リーダーシップに関心を持った。
自分にも関係があると思った。
自分の行動について考えるようになった。
それは大切な変化です。
しかし、人材育成を行うことになった背景には、
もともと何か実現したいことがあったはずです。
たとえば、
次世代を担う人材に、今より広い視野で仕事をしてほしい。
自分の担当範囲だけでなく、組織全体を考えて判断してほしい。
周囲に働きかけ、自分から物事を前に進められるようになってほしい。
そうしたことを期待しているのであれば、
「リーダーシップへの関心が高まった」は最終地点ではありません。
その意識の変化が、次にどのような行動につながってほしいのか。
そこまで考える必要があります。
人が変わるには、途中の段階がある
もちろん、今日研修を受けて、明日から突然すべての行動が変わるとは限りません。
むしろ、重要な能力ほど時間をかけて身につけていくものです。
新しいことを知る。
これまでとは違う見方をするようになる。
自分自身について考える。
新しい行動を試してみる。
うまくいかなかったことを振り返る。
もう一度やってみる。
そうした変化を重ねながら、
少しずつ仕事で使えるようになっていきます。
だからこそ、最終的にどのような行動を期待しているのかが分かれば、
そこからさかのぼって、
その前に何ができるようになっている必要があるのか。
さらにその前には、何に気づき、何を理解している必要があるのか。
と考えることができます。
そうすれば、「今回は意識づけまで」という判断にも意味が生まれます。
最終地点ではないけれど、
次の変化につながる一つの段階として、今回はここまでを目指す。
そう位置づけることができるからです。
研修のゴールを、研修の中だけで考えない
研修後のアンケートで、
「とても勉強になった」
「新しいことを知ることができた」
「リーダーシップについて理解が深まった」
という回答が多ければ、一つの成果ではあります。
研修を提供する側としても、そう言ってもらえればうれしいものです。
でも、そこで研修の話を終えてしまう前に、もう少し先を見てみたいところです。
その学びによって、職場で何が変わるのでしょうか。
本人の行動が変わる。
周囲との関わり方が変わる。
チームの仕事の進め方が変わる。
意思決定の質が変わる。
そうした変化が起きれば、その先には組織として実現したい成果があるはずです。
人材育成は、学ぶことそのものが目的になる場合を除けば、
何らかの形で仕事や組織に貢献するために行われます。
だから、何を学んでもらうかだけではなく、
その学びが何につながることを期待しているのか
まで見ておくことが大切です。
最終的に実現したいことから、今を考える
人材育成を考えるとき、つい、
「どんな研修をしようか」
「何を学んでもらおうか」
というところから考え始めることがあります。
しかし、順番を反対にしてみることもできます。
最終的に、組織として何を実現したいのか。
そのために、誰のどのような行動が必要なのか。
その行動ができるようになるまでに、どのような変化が必要なのか。
そして、今はそのどこにいるのか。
そこから考えれば、
「今は知識を身につけてもらう」
「まず自分自身について考えてもらう」
「今回は意識が変わるところまでを目指す」
という選択もできます。
大切なのは、すべての研修ですぐに行動変化を求めることではありません。
今行っていることが、その先の何につながっているのかが見えていることです。
「意識づけ」をするのであれば、
何について、どのような意識を持ってほしいのか。
その変化は、次にどのような行動につながってほしいのか。
そして、その行動は、組織が実現したいことにどうつながるのか。
その道筋の中に「今」を置いてみる。
そうすることで、人材育成は一回の研修で完結するものではなく、
目指す変化につながるプロセスとして見えてきます。
関連記事
Knowing Doing Gap―わかっているのに、なぜ行動を変えられないのか
何を変えたいかが明確でも、理解したことがそのまま行動になるとは限りません。特に、一度身についた習慣を変え、新しい行動を定着させる難しさについて考えます。
学習を職場の行動につなぐ
研修で理解したことが職場で実行されない背景には、能力、実践する機会、上司や周囲との関係、仕事の仕組みなど、さまざまな要因があります。行動が変わらない理由を、研修だけに求めずに考えます。