世界の優れた企業は、人をどのように育て、組織をどのように強くしているのでしょうか。

SmartWorksでは、デンマーク企業の取り組みを、単なる「成功事例」として紹介するのではなく、HLS(Human Leadership System)
の視点から研究しています。

今回取り上げるのは、Maerskです。

Maerskで行われてきた15,000回を超えるGenba Walks
そこから私たちが注目したのは、とてもシンプルなリーダーシップ行動でした。

「見る」ことです。

私たちは仕事で問題が起きると、すぐに「どう解決するか」を考えようとします。

リーダーであれば、なおさらです。

何が問題なのか。
どう指示するか。
何を変えるべきか。

しかし、その前にやるべきことがあります。

ちゃんと見ることです。

MaerskのGenba Walksから見えてくる一つのInsightは、

Leadership begins with observation.
リーダーシップは、観察から始まる。

ということです。


1.まず、現実を見る

Genba Walkで大切なのは、会議室で報告を聞くだけではありません。

実際に仕事が行われている場所へ行き、自分の目で見る。

仕事を見る。
プロセスを見る。
現場を見る。
そして、人を見る。

ここで重要なのは、すぐに評価したり、答えを出したりしないことです。

まず、
「実際に何が起きているのか?」
を見る。

私たちは、頭の中にある「こうなっているはず」というイメージを、現実そのものだと思い込みがちです。

しかし、現場をよく見ると、「あるべき姿」と「実際に起きていること」の間にギャップが見えてきます。

そのギャップに気づくことから、改善は始まります。

SmartWorksでは、この基本動作を、
SEE → ASK → GAP → ACT
と考えています。

SEE — まず現実を見る。
ASK — 決めつけず、問いかける。
GAP — あるべき姿と現実の差を捉える。
ACT — 小さく行動し、結果から学ぶ。

いきなり答えを出さない。

考える前に、ちゃんと見る。

それが改善の第一歩です。


2.「人を見る」ことが、対話を変える

しかし、観察する対象は、仕事や設備、プロセスだけではありません。

HLSの視点で特に重要なのは、人を見ることです。

例えば、部下と話すとき。

私たちはつい、

「何を質問しよう」
「何を伝えよう」
「どうアドバイスしよう」

と考えます。

しかし、その前に相手を見てみる。

表情はどうか。
声の調子はどうか。
いつもより静かではないか。
何か言いたそうではないか。
少し戸惑っていないか。

そうした小さな変化に気づけば、次にかける言葉も変わります。

例えば、
「どうしたの?」
とすぐに聞くのではなく、

「何か気になっていることがありますか?」
と聞いた方がよいかもしれません。

あるいは、その場ですぐに質問せず、少し時間を置いた方がよい場合もあります。

見ることによって、問い方が変わる。

そして、

問い方が変われば、対話が変わる。

ここに、HLSで「見る」ことを重視する理由があります。


3.心理的安全性も、「ちゃんと見る」ことから始まる

日本企業でも、心理的安全性への関心が高まっています。

心理的安全性を高めるために、

制度を変える。
研修を行う。
1on1を導入する。

もちろん、こうした取り組みも重要です。

しかし、心理的安全性は、制度を導入しただけで生まれるものではありません。

日々の小さなリーダーシップ行動の積み重ねによって、つくられていきます。

相手を見る。

小さな変化に気づく。

決めつける前に問いかける。

最後まで話を聞く。

そうした日常の行動が、

「話してもいい」
「意見を言ってもいい」
「わからないと言ってもいい」
「失敗について話しても大丈夫」

という感覚につながります。

一つの流れとして考えると、

Observe → Dialogue → Speak Up → Learn → Improve

です。

まず見る。

そこから対話が生まれる。
人が話せるようになる。
問題、失敗、懸念、アイデアが表に出る。
そこから学びが生まれる。
そして改善が始まる。

つまり「観察」は、単なる仕事術ではありません。

心理的安全性を生み、組織の学習を始めるリーダーシップ行動でもあるのです。


4.「答えを教える人材育成」から、「自分で学べる人材育成」へ

この考え方は、日本企業の人材育成にも重要な示唆を与えてくれます。

これまでの人材育成では、

正しい知識を教える。
正しい方法を教える。
正しい答えを教える。

ことが重視されてきました。

それらは、これからも必要です。

しかし、環境変化が速く、過去の正解がそのまま通用しない時代には、それだけでは十分ではありません。

これから必要なのは、

自分で見る。
自分で問いを立てる。
自分で考える。
小さく行動する。
結果から学ぶ。

ことのできる人ではないでしょうか。

つまり、

「答えを知っている人」を育てるだけでなく、「自分で学び続けられる人」を育てる。

これは、日本企業で注目されている自律的成長・キャリア自律にもつながります。

上司から答えが与えられるまで待つのではない。

自分で現実を見る。

問いを立てる。

試してみる。

結果を見る。

そして、また考える。

こうした学習サイクルを日々の仕事の中で回せる人が増えれば、人だけでなく、組織そのものの学習力も高まります。


5.人的資本経営とは、具体的に何をすることなのか

そして、ここから日本企業にとって非常に重要なテーマにつながります。

人的資本経営です。

人的資本経営という言葉は、日本企業の経営者や人事担当者の間で広く使われるようになりました。

人材を単なる「費用」ではなく「資本」と捉え、その価値を高め、企業価値の向上につなげる。

重要な考え方です。

一方で、
「人的資本経営が重要なのはわかる。しかし、具体的に何をすればよいのか?」
という声も多いのではないでしょうか。

研修制度を増やす。
スキルを可視化する。
人材データを整備する。

もちろん、これらも必要です。

しかし、それだけで人的資本が高まるわけではありません。

人の能力、判断力、主体性は、
日々の仕事の中で使われ、磨かれ、学習することで高まっていく
からです。

そこで重要になるのが、毎日のリーダーシップ行動です。

部下の様子をよく見る。

答えを与える前に問いを投げかける。

意見を言える環境をつくる。

失敗を隠すのではなく、そこから学べるようにする。

自分で考え、小さく試す機会をつくる。

こうした行動の積み重ねによって、一人ひとりの能力、判断力、主体性が高まっていきます。

人的資本経営を実践するとは、人材を「資本」と呼ぶことではありません。

人が日々の仕事を通じて成長できる環境と仕組みをつくることです。

Maerskの15,000回を超えるGenba Walksから、私たちが日本企業に持ち帰るべき重要なInsightの一つは、ここにあると思います。


6.HLS ― リーダーシップ行動を、人と組織の成長につなげる

SmartWorksでは、世界の企業事例を研究しながら、
「どのような日常のリーダーシップ行動が、人と組織の成長につながるのか」
を、HLS(Human Leadership System)の視点から考えています。

今回Maerskから注目したのは、その中でも最も基本的な行動の一つ、

「ちゃんと見る」

ことです。

見る。

問いかける。

対話する。

人が話せるようになる。

問題や失敗、アイデアが共有される。

そこから学ぶ。

改善する。

そして、人と組織が成長する。

一つの流れとして表すなら、

Observation

Dialogue

Speak Up

Psychological Safety

Learning

Improvement

Growth of People and Organizations

です。

人的資本経営という大きな経営テーマも、最後はこうした一人ひとりの日々のリーダーシップ行動に落とし込まれなければ、
現場は変わりません。

HLSが目指しているのは、理念を理念のまま終わらせず、人が毎日の仕事の中で実践できる行動に変えることです。


7.Action ― 明日から「人的資本経営」を始める

では、明日から何をすればよいのでしょうか。

大きな制度改革から始める必要はありません。

まず、一つのリーダーシップ行動を変えてみます。

人と話す前に、相手を見る

表情、声、様子を見る。

問題を聞いたら、答える前に現場を見る

「実際に何が起きていますか?」

と確認する。

意見を求める前に、問い方を考える

「あなたはどう思いますか?」

だけでなく、

「あなたはどう見ていますか?」

と聞いてみる。

Speak Upしにくそうなら、もう一つ問いを加える

「何か言いにくいことはありませんか?」

そして、自分の答えをすぐに与えない。

相手が自分で考え、小さく行動する機会をつくる。

SEE → ASK → GAP → ACT

見る。
問う。
ギャップを捉える。
小さく行動する。
そして、そこから学ぶ。

これだけでも、日常の仕事は変わり始めます。

人的資本経営を、理念で終わらせない。

一人ひとりの毎日の行動に変える。

その最初のActionは、意外なほどシンプルなのかもしれません。

考える前に、ちゃんと見る。

そして、

話す前に、相手をちゃんと見る。

Maerskの15,000回を超えるGenba Walksは、そのシンプルなリーダーシップ行動が、改善だけでなく、人の成長、心理的安全性、
そして人的資本経営にもつながる可能性を示しています。


こんな課題をお持ちの方へ

  • 人的資本経営を具体的な行動に落としたい
  • 心理的安全性を現場で高めたい
  • 自律的に考え、行動する人材を育てたい
  • 次世代リーダーを育成したい

SmartWorksでは、HLS(Human Leadership System) の視点から、日々のリーダーシップ行動を、人と組織の成長につなげる
支援を行っています。

理念や制度だけで終わらせず、現場で実践できる行動へ。


Akira Chida
SmartWorks
HLS Global Case Research